八重山毎日新聞
監視データを”監視”
電磁波を恐れ引っ越しも
自衛隊がやってきた 配備直前の与那国を歩く 3

「無視できない」
白い球体が久良部の集落を見下ろしている。民間との距離は最短で190メートルほど。沿岸監視隊駐屯地北西の高台に設置された沿岸監視レーダーだ。
「集落のどこにいても弾が見えるので無視しようと思っても無視できない」
そう不安を募らせるのは久良部小学校に子供を通わせている40代の母親だ。
電磁波の数値は基準ないとされているが「レーダーがあるから防衛省は久良部に隊員の宿舎作らなかったのではないか」と今も不信感をぬぐえないでいる。
「国は影響ないと言うが、100%大丈夫という根拠がない。電磁波は目に見えないだけに心配。久良部の雰囲気も景色も大好きなので住み続けたいが、影響を受けやすい子供の健康被害が心配なので引っ越そうと思っている」。
ただ、粗納で物件を探しているが、見つかっておらず、「子供を本島の学校に通わせ、主人と子供に面倒みようかという話もしている」と表情を曇らせた。

 

「三権分立あるか」
電磁波の影響をめぐっては、上地国生氏(73)ら30人の住民グループが昨年6月に行った自衛隊基地建設差し止めの申し立てで、電磁波によって健康被害を避ける恐れがあるとして人格権の侵害を訴え、控訴審まで争ったが、今年2月19日、一審同様に棄却された。
住民側は、国内の駐屯地で与那国と同型とみられるレーダーの電磁波を独自に測定、高い数値になっていることをデータで示したが、「測定方法や算出方法が明らかにされておらず、相手方(国)の測定結果の信用性が否定されるようなものではない」として退けられた。
上地氏は「予想されたことだが、国の言い分しか聞かない。日本に三権分立はあるのか」と憤る。

 

国は「安全」と言うが

与那国島の明るい未来を願うイソバの会(稲川宏二共同代表)は昨年11月、簡易型測定器を使って電磁波の調査を開始した。
毎月1回、久良部13所、比川2カ所、粗納3カ所の計18 カ所で測定し、レーダーが稼働した後の数値と比較することにしている。
「国の安全といっても住民には不安がある。数値が高くなれば住民に情報提供して注意を喚起し、国に説明を求めていく」と稲川代表。
監視レーダーを住民の側から逆に”監視”していくつもりだ。
写真:久良部集落の高台に設置されている沿岸監視レーダー。

集落を見下ろしてるかのよう=22日午後、久良部中学校専門前
(比嘉 盛友記者)