与那国島では3月28日の入隊式に合わせ、自衛官とその家族が転入届けを始めました。
しかし、基地建設と共に自然破壊の懸念が浮上しています。
必ず、もとの自然溢れる与那国島を取り戻しましょう。
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八重山毎日新聞 2016年3月25日付
論壇
入隊式を前に、与那国町「自衛隊基地」を問う
宮良 純一郎
与那国島への陸上自衛隊沿岸監視部隊(以下、施設も含めて「自衛隊基地」と表す)の配備に伴って「入隊式」が3月28日に行われます。
町は島嶼防衛という国策である「自衛隊基地」に経済の活性を求め、それに過半数の町民が賛成を表したのが昨年2月の住民投票でした。
一方で、島の将来を憂い41%の町民が自衛隊基地建設に反対しており、その民意もまた重いものです。
入隊式というこの期におよび「自衛隊基地」一帯の自然環境がすっかり変わり果ててしまいました。
基地建設によって、自然の破壊が進んでいます。
今後、健康や産業・暮らしへの影響が十分に予想されます。
それらの問題については、島の将来を憂う住民から指摘され、国や町当局に説明を求めてきましたが誠意ある説明・回答はありませんでした。
また、「自衛隊基地」の全容がいまだ住民に明らかにされず、国の説明責任が十分に果たされているとは言えません。
防衛が国の専権事項とはいえ住民の生活、健康安全に密接に関わる「自衛隊基地」の配備には、当然のことながら住民の意思が尊重され配慮されてしかるべきです。
それを無視すれば地方自治や憲法の精神にも反することになります。
以下、問題点を挙げ、問います。
「自衛隊基地」と共存していくであろう与那国町からお叱りを受ける覚悟の上で本稿をすすめます。
与那国町が平和で真に自立した豊かな町づくりを推進していけるよう願うからです。
第一の問題は「自衛隊基地」建設によって自然環境の破壊が進んでおり、国の環境状況調査が十分になされたのかということです。
その一つは地質の破壊の問題です。建設が進められている南牧場一帯の地質は琉球石灰層と頁岩(けつがん)・砂岩層がはしり、鳥の創世記を探る貴重なものです。
何百万年という鳥の誕生の歴史からすると、一瞬にそれが削り取られ、粉々に壊されたのです。そのことによって、地質の保水力に悪影響を与え、水の枯渇が出はじめています。
今後、赤土流出によって沿海漁業にも深刻な影響が出てくることも予想されます。
その二つは生態系に与える影響の問題です。
建設地はレーダー建設が建つ島の中央インビ岳地帯から「自衛隊基地」の駐屯地が建つ南牧場、そしてもう一つのレーダー施設地(久部良集落に近い)と広く東西約7キロにわたっています。
駐屯地を中心に両レーダー施設をつなぐ道路の拡張工事、架橋の建設がなされています。
それによって、その一帯に生息する与那国固有の希少種野生動植物の生態系に甚大な影響が出ることは必至です。
国は建設計画の全容を明らかにし、町に報告されているのか疑念が生じます。
黒塗りで情報を隠すのではなく、全面公開の環境状況調査の報告が求められます。
第2の問題は、レーダーから一日中照射される電磁波によって健康被害が生じることです。防衛省と町共済の説明会で、講師はレーダー電磁波について「科学的に100%絶対に無害という証明は難しい。電磁波的には基準を超えた使用は考えられない」と言っています。
基準を超えた使用はないから安全だということでしょう。
しかし、この基準が問題です。
電磁波の専門家は、日常生活に支障をきたし著しい健康被害をもたらす電磁波の危険性を指摘し「レーダーが久部良集落に大変近すぎて、全国でも最強である。周辺住民に対する人権侵害である」とその警鐘を鳴らしています。
しかし、国は何の根拠もない「安全神話」に固執しており、それに呼応した町の姿勢は「住民の健康安全および福祉を保持すること」をうたう自治法の理念にももとり非常に問題です。子供の健康安全を懸念して島を離れる住民も出始めていると聞きます。
第3の問題は、今後の与那国町政に係る問題です。
2005年に策定した「与那国町・自立ビジョン」を見直し、「自衛隊基地」の立地に合わせて「島の骨格を再編」していく施策を打ち出していますが、全島が軍事基地化と歩んでゆく危うさをはらみ、住民自治の視点から疑問を持たざるを得ません。
町民と行政が一体となって策定した「与那国町・自立ビジョン」に基づいた総合計画の具体化と実践こそが地方自治の本旨に基づいた本来の町政です。
以上、問題点を挙げましたが、国(防衛省)、与那国町当局はそのことを真剣に受け止めてもらいたいものです。
そして、町民に対しては納得いく説明と、しかるべき対応・配慮があるべきです。